交通政策基本計画 ③

2.今後の交通政策の在り方の基本認識
交通政策基本法第2条に規定されているとおり、交通は、国民の日常生活・社会生活の確保、活発な地域間交流・国際交流や円滑な物流を実現し、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を図るための社会的な基盤であり、交通政策を推進するに当たっては、交通の機能を将来にわたって十分に発揮させ、国民等の交通に対するニーズを適切に充たしていくことが求められている。同法に基づき、上記の社会的経済的要請に対応した交通関係施策を、以下の3つの基本的方針の下で推進することとする。
基本的方針A.豊かな国民生活に資する使いやすい交通の実現
我が国では従来、公共交通ネットワークの形成は、民間事業者の能力を活用して、利用者のニーズを前提として、それに対応するよう輸送サービスを提供するという形で進められてきた。しかしながら、今後見込まれる人口の急激な減少に伴い、特に地方部において、民間事業者による採算ベースの下では適正な利用者負担による輸送サービスの提供が不可能となる地域が増加するおそれがある。こうした地域においては、高齢化の進展に伴い、自家用車を運転できない高齢者等の移動手段としての公共交通の重要性が増大しており、自治体をはじめとして交通に関わる様々な主体が相互に協力し、地域が一体となって交通ネットワークを形成することが不可欠となっている。さらに、地方の中小の都市部など、民間事業者による輸送サービスの提供が可能なエリアにおいても、都市機能や居住の誘導といったまちづくり施策、さらには交流人口を増加させるための観光施策などと十分に連携して交通施策を進めることにより、将来にわたって持続可能な交通ネットワークを構築し、地域の活力を維持するとともに、個性あふれる地方の創生を推進していくことが求められている。
基本的方針B.成長と繁栄の基盤となる国際・地域間の旅客交通・物流ネットワークの構築
交通は、我が国の成長を牽引する経済活動と多くの国民の豊かな暮らしを支える基盤であり、特に大都市圏において、PPP/PFI の活用も含め民間事業者の能力を最大限に生かしつつ、より一層の利便性向上が求められている。
一方で、経済活動の面で、アジアを中心として我が国を取り巻く国際競争が激化している中で、我が国が国際競争力を保っていくためには、国際空港や国際港湾などを拠点とした国際交通ネットワークづくりが不可欠となっている。また、国内交通ネットワークに関しても、交流人口の増加等を通じて地域間の格差をできる限り是正するとともに、各地域の固有の歴史、文化、地場産業などを活かした地域活性化を進める観点から、その拡大・充実が必要である。
基本的方針C.持続可能で安心・安全な交通に向けた基盤づくり
東日本大震災の経験等を踏まえて、交通関係の社会資本に係る大規模災害対策及び老朽化対策に取り組むとともに、それらと連携しながら交通に固有のソフト面での対策も進めることで、持続可能で安心・安全な交通を実現することが求められている。
また、近年、JR 北海道問題や高速ツアーバス事故等のような、交通サービスへの信頼を根底から揺るがす事態が生じており、持続可能で利用者にとって安心・安全なサービスを提供できる事業の健全性を確保する必要性が再認識されている。
地球環境問題については、我が国における運輸分野の CO2排出量の現状に鑑み、交通政策としても引き続き地球温暖化対策に取り組む必要があるとともに、産業全体での新エネルギーの導入に向けた動きへの的確な対応や、大気汚染や騒音、生態系破壊などの問題への継続的な取組が求められている。


これらの基本的方針に沿った施策については、特に次の事項に留意しながら、策定・実施されなければならない。
適切な「見える化」やフォローアップを行いつつ、国民・利用者の視点に立って交通に関する施策を講ずる
国、自治体、事業者、利用者、地域住民等の関係者が責務・役割を担いつつ連携・協働する
ICT 等による情報の活用をはじめとして、技術革新によるイノベーションを進める
2020 年の東京オリンピック・パラリンピックの開催とその後を見据えた取組を進める
(*)本計画の施策と交通の安全の確保に関する施策との関係について交通に関する施策のうち、交通の安全の確保に関する施策については、昭和 45 年に制定された交通安全対策基本法とその関係法律に定めるところによることとされ、同法に基づき、これまで9次にわたって交通安全基本計画が作成されるなど、交通の安全の確保に関する施策が強力に実施されてきている。
一方で、運輸事業その他交通に関する事業の健全な発展を図ることが交通の安全の確保につながるなど、交通の安全の確保を直接の目的としない施策であっても交通の安全の確保に資するところであり、両者は密接に関わるものである。
このため交通政策基本法では、第1条で、交通安全対策基本法と相まって交通に関する施策を総合的かつ計画的に推進すると規定した上で、第7条で、交通の安全の確保に関する施策については、交通安全対策基本法その他の法律で定めるところによるとするとともに、交通に関する施策の推進に当たっては、交通の安全の確保に関する施策との十分な連携が確保されなければならない旨を定めている。
したがって、本計画においては、交通安全対策基本法等に基づく交通の安全の確保に関する施策(以下「安全確保施策」という。)との十分な連携が確
保されている旨を明確にしながら、交通に関する施策を総合的かつ計画的に推進することとする。