総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)②

Ⅰ.総合物流施策大綱策定の意義

(2)我が国が直面する課題
① 人口減少の本格化や労働力不足への対応
我が国の総人口は 2008 年をピークに減少局面に入っており、2050 年には約1億人にまで減少する見通しである。人口減少を年齢階層別に見ると、2015 年から 2050 年にかけて、生産年齢人口は約 2,400 万人、若年人口は約 520 万人減少し、その結果、高齢化率は約 27%から約 38%へ上昇すると見込まれている。
生産年齢人口の減少は労働力不足に拍車をかける可能性があり、今後は、高齢者をはじめ、より多様な働き手の確保が求められる。また、過疎地域をはじめとした多くの地域で買い物や医療など生活に必要なサービスの維持が困難になるおそれもある。
こうした中、地域経済を活性化させ、地方創生を推進していくためには、地域の農林水産物の輸出拡大など地域と海外を直接結び付ける施策なども必要となっている。


② 災害の激甚化・頻発化と国民の安全・安心の確保
我が国は地震多発国であり、南海トラフ巨大地震の発生確率が、今後 30 年以内で 70~80%とされるなど、遠くない将来における巨大地震の発生確率は非常に高い。また、近年、気候変動の影響により気象災害が激甚じん化・頻発化している。
我が国は平地が少なく、ひとたび巨大地震や大水害等が発生すれば、甚大な被害が拡大しやすい傾向にある。このため、国民の生命と財産を守るため、防災・減災への徹底的な対応が必要である。
また、国民の安全・安心の確保のためには、様々な輸送機関における重大事故の防止を図ることが重要である。さらに、高度経済成長期に集中的に整備された道路、港湾等のインフラについて、2033 年における建設後 50 年以上経過する施設数の割合は、2018 年時点比で約2~6倍増と見込まれるなど、老朽化するインフラの維持管理や更新も喫緊の課題である。


③ Society5.0 の実現によるデジタル化・イノベーションの強化
世界の新興国の成長は目覚ましく、2050 年には中国やインドをはじめとしたアジア諸国が世界全体の GDP の過半を占めると予測されている。他方、我が国の GDP は、2050 年には世界全体の約3%に過ぎなくなる見込みであり、相対的に日本のシェアは低下することが予測されている。
このような状況下で、我が国としては、世界に先駆けて提唱した Society5.0 を実現し、デジタル化とイノベーションを強化することが不可欠である。
現状では、我が国のデジタル化の遅れは顕著であり、社会全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進が急務となっている。近年、AI や IoT 等によるイノベーションが飛躍的に進展しているが、人口減少・少子高齢化が急激に進む我が国のおかれた状況を踏まえると、こうした様々な新技術を速やかに社会実装に結びつけることで、今後の持続的な成長と国際競争力を維持していくことが必要である。
その際、ダイバーシティの観点から、女性、高齢者、若者、障がい者、在留外国人等の多様な人が活躍し、交流することにより、多角的なイノベーションが促進される社会を目指すことにも留意が必要である。

④ 地球環境の持続可能性の確保や SDGsへの対応
全世界の気候の温暖化は疑う余地がなく、このまま地球温暖化が進めば、農林水産業や自然生態系、水環境・水資源に深刻な影響を及ぼし、更に自然災害の激甚化・頻発化のおそれがある。
2015 年に採択されたパリ協定では、世界共通の長期目標として、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑制することなどが定められた。我が国においても、令和2年第 203 回国会(臨時会)の総理大臣所信表明演説において、「2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことが表明された。さらに、2021 年4月には、2030 年度に温室効果ガス排出量を 2013 年度比で 46%削減することを目指し、更に 50%の高みに向けて挑戦を続けていくことを表明するなど、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向け、更なる取組の強化が求められている。
また、2015 年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、地球上の「誰一人も取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を目指すこととされており、あらゆる行政分野において、SDGsに規定された 17 目標・169 ターゲットを視野に入れて、政策を立案・実施していくことが必要となっている。


⑤ 新型コロナウイルス感染症への対応
新型コロナウイルス感染症は世界で猛威を振るっており、我が国でも全国に感染が広がるなど、その脅威が継続している。
これにより、世界経済は世界恐慌以来の後退に見舞われ、今後の回復見通しは不透明であり、グローバルサプライチェーンも世界各地で寸断し、物資の供給等様々なリスクが顕在化した。
我が国においても幅広い産業に影響が広がり、2020 年4-6月期の実質 GDP 成長率は、前期比で年率 28.6%減となる一方、7-9月期は年率 22.9%増となり、2021 年1-3月期には再び下方に転じる1など経済は大きく変動している。

このような中、我が国経済の持続的な成長と感染防止の徹底を両立させるため、「三つの密」の回避をはじめとする「新しい生活様式」の定着が求められるとともに、脆ぜい弱性を露呈したサプラチェーンの再構築や、他の先進国と比べて大きな遅れが指摘された DX の加速を図ることが極めて重要な課題として認識されている。