事業改善命令
〔13〕事業改善命令(法第15条)
1 趣旨
改正前の倉庫業法においては、国土交通大臣は、倉庫業者からの報告や立入検査により、倉庫業の運営上不適切な事実を把握し、これが倉庫の利用者の利便その他の公共の利益を阻害している事実があると認める場合であっても、行政指導を行うにとどまり、法的な措置を講じることができないこととなっていた。このため、事前規制型の行政から事後チェック型の行政への転換を図るため、このような場合に、国土交通大臣が倉庫業者に対し、料金の変更その他の事業の運営を改善するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる制度を創設したものである。
2 事業改善命令の発動基準
2-1 事業改善命令の発動対象は、倉庫業の運営全般にわたるものであり、この発動基準を一律に示すことは困難であり、個別の事情に応じて判断することが必要であるが、例えば、以下のような事例がこれに該当すると考えられる。
イ 保管貨物の管理が継続的に不良なため、少なからぬ荷主に不測の損害を与えている場合。
ロ 冷蔵倉庫の冷却装置の整備不良により冷媒のアンモニアが漏出する等、倉庫周辺に危害が生じている場合。
2-2 なお、料金に関する事業改善命令の発動基準をあえて示せば以下のとおりである。
イ 倉庫業者が次に掲げる料金を定めた場合であって、これにより倉庫の利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認められること。
(1) 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、荷主が当該事業を利用することを著しく困難にするおそれがあるもの
(2) 特定の荷主に対し、不当な差別的取扱をするもの
(3) 他の倉庫業者との間に、不当な競争を引き起こすこととなるおそれがあるもの
(4) 荷主にとって容易に理解することが困難であり、荷主に不測の損害を与えるおそれがあるもの(特に、トランクルームについて)
ロ イ(3)については、具体的には、労働コストを含む変動費(保管又は荷役の業務に応じ変動する費用のことであり、原則として人件費、動力費、材料費、下請費用が含まれる。)をもまかなえない市場略奪的な料金等公正な競争を阻害するおそれがあるものが該当するところであり、個別の事例ごとに当該料金に係る地域の市場動向、設定意図、継続性、他の事業に与える影響等を勘案し、総合的に判断すること。
ハ 平成7年運輸省総務審議官通達(倉庫料金届出において原価計算書等の添付を省略できる場合の公示について)のⅠに掲げる料金の範囲内で個々の料金設定が行われる場合については、当分の間、原則としてイ(1)又は(3)に該当しないものと推定される。
3 手続等
3-1 事業改善命令は行政手続法上不利益処分に該当するため、この発出に当たっては、聴聞を行う等同法の規定に基づき行うこと。
3-2 事業改善命令は、公共の利益を阻害している事実の是正のため必要な限度で、当該是正のため必要な期限を定めて行うこと。
3-3 3-2の期限を経過しても是正が行われない場合には、倉庫業法第 21 条に基づく処分等を検討すること。
4 料金届出との関係
倉庫業法施行規則第 24 条第1項の料金の届出は、倉庫業法の改正前の事前規制たる料金の事前届出とは異なり、倉庫業者の営業実態を把握するために行うものである一方、料金に関する事業改善命令は、実際に行われている料金に着目して発出されるものであり、この届出に基づき、料金に関する事業改善命令が発出される制度にはなっていない。しかしながら不適当な料金が届け出られた場合には、当然実際の料金も不適当なものであると推定されることから、より詳細な報告を徴収し、又は立入検査を行うことにより、事業改善命令発出の可否について検討を行う必要がある。逆に、本届出が行われていない、又は実際の料金と異なる料金が届け出られている場合においても、立入検査等により不適当な料金設定が行われていることが発覚した場合には、事業改善命令の対象となりうるものである。
5 罰則等との関係
国土交通大臣の発出した事業改善命令に違反した者は、50万円以下の罰金に処せられることとなる(倉庫業法第29条)とともに、営業停止又は登録取消しの対象となる(同法第21条第1項)。