総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)④
Ⅱ.物流を取り巻く現状・課題と今後の物流施策の方向性
(1)前大綱策定以後の物流を取り巻く環境の変化
本節では、2020 年の新型コロナウイルス感染症の流行以前までの状況等を概観する。
1)物流産業における労働力不足の社会問題化
生産年齢人口の減少や少子高齢化により、労働力不足は各産業共通の課題となっている。我が
国の物流産業は、その労働就業者数が約 258 万人であり、全産業就業者数(約 6,681 万人)の約
4%を占める一大産業であるが、その大宗を占めるトラック運送事業に従事するトラックドライ
バーは、全産業と比べて労働時間が長い一方で、年間所得額が低い状態が続いていることに加え、
食品流通をはじめとして手荷役等の負担を強いられるなど、その厳しい労働環境から、担い手の
確保が特に懸念されている。前大綱期間では、「働き方改革」が政府全体の重要な政策課題として
取り上げられたことも相まって、こうしたトラックドライバー不足とそれに起因する問題が大き
くクローズアップされ、社会問題として認識される状況となった。
とりわけ、2017 年の宅配便配送に係る総量規制や宅配便の運賃値上げなどの一連の動きは、い
わゆる「宅配クライシス」として社会的に大きく取り上げられ、「物流サービスは、常時、当然の
ように提供されるもの」という考え方に一石が投じられることとなった。
また、2018 年6月に働き方改革関連法2が成立し、2024 年度からトラックドライバーに対して、
時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されることとなった。将来予測として、需要に対し 20 万
人超の規模でトラックドライバーが不足するという調査結果3もある中、今後、物流事業者は時間
外労働の削減など労働環境の改善について実効性のある対策を加速させる必要がある。
こうした中、EC 市場は急成長しており、2019 年の国内の BtoC-EC(消費者向け電子商取引)の
市場規模は、19.4 兆円(前年比 7.65%増)に拡大し、この傾向が更に拡大することで、今後、ト
ラックドライバーの労働需給は更に逼迫するおそれがある。また、人口減少が進む中、物流需要の
少ない過疎地域等における物流網維持のためのドライバーの確保も大きな課題である。
内航海運においても、船員の約半数を 50 歳以上が占めるなど高齢化が継続し、労働環境の厳し
さ等から若年層の定着も課題となっている。船員は陸上職と異なる労働制度が適用されるため働
き方改革関連法の適用は受けないものの、労働力確保に向けた働き方改革は急務といえる。
物流産業における労働力不足の問題は、国民生活に必要な物資を運ぶという社会インフラの機
能不全、すなわち「モノを運べない」事態に直結する深刻な問題を引き起こす可能性があり、一刻
も早く解決すべき課題である。