総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)⑥
Ⅱ.物流を取り巻く現状・課題と今後の物流施策の方向性
(1)前大綱策定以後の物流を取り巻く環境の変化
3)国際物流を取り巻く環境の変化
世界全体の貿易額が増大する中、特にアジア域内外を中心とした貿易額は急速に拡大し、サプライチェーンのグローバル化は更に深化している。2020 年の我が国と中国との貿易額は 1999 年比で4倍以上に増加しており、我が国の貿易額は、中国、韓国、ASEAN で4割以上を占めている。
このように貿易全体は増加基調であり、世界の港湾におけるコンテナ取扱個数も 2019 年までは増加基調であるが、一方で、外航海運における船腹需給は供給過多の状態であり、近年も国際運賃市況は低位の水準にある。加えて、世界の海上荷動量が拡大傾向にある中、我が国の外航海運の輸送比率は減少傾向にあり、我が国海運企業は厳しい経営環境に置かれている。また、北米・欧州等と直接接続する国際基幹航路が日本の港湾に寄港することは、我が国に立地する企業の国際物流に係るコストとリードタイム等の観点に加え、我が国の経済安全保障上も重要である。しかしながら、アジア諸港におけるコンテナ取扱量の急増、スケールメリットを追求するためのコンテナ船の更なる大型化や、船社間のアライアンスの再編等により寄港地の絞り込みが進展しており、我が国にとって厳しい状況が続いている。さらに、我が国の国際航空貨物取扱量は、リーマンショック等の影響による落ち込みを経て、ここ数年は、東京国際空港の機能向上や、各国際空港の国際線拡張などに伴い増加傾向にあったが、2017 年度をピークに、大規模自然災害の発生や米中貿易摩擦等の影響により減少に転じたところである。
こうした中、日系企業の海外展開に伴い、物流企業の海外進出も進んでおり、2018 年の物流企業の現地法人数は、2004 年比で台湾・香港・中国が約3倍、ASEAN は約4倍となっている。国際競争力の一層の強化のため、我が国物流企業の海外展開を更に後押しすることが重要である。
さらに、我が国の農林水産物・食品の輸出拡大は、持続的な経済成長や地域経済の活性化等に資する方策として重要となりつつある。輸出額は 2020 年に 9,217 億円であり、8 年連続で過去最高を更新し、アジアへの輸出額が全体の 75%を占めている。今後、この輸出額を 2030 年までに5兆円とする政府目標に向け、それを支える物流基盤の整備など積極的な取組が求められる。
なお、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の推計によると、2019 年の世界貿易(財貿易、名目輸出ベース)は、前年比 2.9%減、貿易数量(輸出ベース)も前年比 0.1%減となり、世界貿易は金額、数量ともに前年から減少に転じている。金額、数量双方の伸びがマイナスとなったのは世界金融危機下の 2009 年以来 10 年ぶりであるが、米中貿易摩擦や世界の経済成長鈍化など
が背景にあると考えられる。
こうした国際経済の不確実性が高まる状況下で、従来の国際サプライチェーンが見直される動きも見られることから、我が国物流企業もこうした動きに柔軟に対応する体制構築が求められるほか、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた動きを踏まえ、経済安全保障の観点から国際物流の重要性を再認識すべきである。
また、2021 年3月に発生したスエズ運河におけるコンテナ船の座礁事案においては、同運河の通航が6日間にわたり不通となり、安定的な国際物流の実現のため、多様な輸送手段・輸送ルートを確保しておくことの重要性が改めて認識されたところである。