総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)⑭

Ⅲ.今後取り組むべき施策
前大綱下における物流を取り巻く環境の変化に加え、今般の新型コロナウイルス感染症の流行による社会の変化は、ポストコロナも見据えた新たな物流のあり方への転換とともに、これまで進捗してこなかった物流の構造改革や生産性向上に向けた取組を加速度的に促進させるまたとない機会であり、Ⅱ.(5)で示した方向性を踏まえ、今後の取り組むべき施策を下記のとおり示す。
1:物流 DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化
(簡素で滑らかな物流の実現)
物流は、配送先、荷量、品目、荷姿等が毎回異なるなど、業務実施に当たり細かな条件を示される場合が多く、機械化やデジタル化が難しい側面がある。また、我が国の物流現場におけるスキルやノウハウのレベルは総じて高く、機械やデジタル技術に頼らずとも荷主が求めるサービス水準を維持できてきたという側面もある。一方で、物流の現場においては、書面手続や対人・対面に拠るプロセスが多いなど非効率な部分も多く、今後労働力不足が深刻化する中、またウィズコロナの現状において、これまで物流現場において当然と考えられてきたプロセスを改善していく必要がある。
デジタル化や機械化の推進は、これまで複雑、非定常であった物流の作業プロセスをできるだけ単純化、定常化することや、デジタル機器等を介したスキル等の伝承にもつながり、若年層や女性をはじめ多様な労働力の確保にも有効である。
また、物流デジタル化の推進により、これまで一部の荷主・物流事業者がそれぞれのシステムを通じて部分的に共有していた輸送情報や販売情報等の物流・商流データについて、サプライチェーンを構成する各事業者間での個社・業界の垣根を越えた収集・蓄積・共有・活用が容易となり、一層の連携の構築が可能となる。
こうしたモノの流れの「見える化」が推進されることで、トラックや倉庫をはじめ既存の物流リソースの有効活用につながり、荷主とトラック運送事業者間での貨物情報の交換による、より効率的なマッチングの実現や、販売に関する情報を物流の川上側に還元することによるリードタイムや出荷タイミングの最適化等が促進され、滞りのない円滑な物流を実現できることとなる。
以上のような、機械化やデジタル化を通じて既存のオペレーションを改善し、働き方の改革につなげることにより、経験やスキルの有無だけには頼らない、ムリ・ムラ・ムダがなく円滑に流れる物流、すなわち「簡素で滑らかな物流」の実現を目指す。また、物流の機械化・デジタル化は、輸送情報やコストなどを「見える化」することを通じて、荷主等の提示する条件に従うだけの非効率な物流を改善するとともに、物流システムを規格化することにより収益力・競争力の向上が図られるなど、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させていくものである。こうした取組によりこれまでの物流のあり方を変革する取組を「物流 DX」と総称する。これにより他産業に対する物流の優位性が高まるとともに、我が国産業の国際競争力の強化にもつながるものと考えられる。また、物流の現場で働く労働者のスキルやサービス水準が高い我が国は、物流 DX を円滑に進めやすい環境にあると考えるべきである。
物流 DX の推進のためには、物流を構成するソフト・ハードの各種要素の標準化が重要なポイントである。例えば、パレットや外装サイズが標準化されれば、庫内作業へのロボットの導入が進みやすくなるほか、伝票や配送コードの標準化が進めば、配送業務の効率化、作業の汎用化・簡素化につながる。これまでは、コスト負担の問題や様々な商慣習の影響などにより、こうした標準化はあまり進捗を得られない面もあったが、物流 DX を推進する上で物流の標準化は必要不可欠である。また、物流 DX を推進する上では、サプライチェーン全体を俯瞰した視点で物流をマネジメントできる高度人材を確保することが必須であり、その育成に努める必要があるほか、海外をはじめ最先端の物流分野における DX の動向を常に把握するという視座とそれを踏まえた取組も重要である。